スタートアップ支援

まっすぐ「創業」の思いを伝えれば、人は動く。

株式会社エルティービー
ドキュメント:スタートアップ支援-株式会社エルティービー

羽田空港を間近に臨む、大田区「天空橋」駅。この日、きらぼしグループが運営するイノベーション施設「KicSpace HANEDA(キックスペース羽田)」内にあるホールでは、きらぼし銀行アクセラレータープログラムに採択されたスタートアップ数社による最終プレゼンが行われていた。

130人の聴衆を前に、株式会社エルティービーの鈴木晴美社長が口をひらく。「私はアラフィフの起業家。どうしても叶えたい夢があるんです」――。

エルティービーは2013年、江戸川区小岩で産声を上げたスタートアップ。社名はLive to Business(「ビジネスに力を与える」という意味)から名づけられた。2014年から外国人に特化した人材紹介を開始。2021年4月に人材紹介をIT化したプラットフォーム(ベータ版)をリリースし、合わせて10年近い歩みを着実に進めてきた。

メインとなる事業内容は、外国人特化型求人サイト「Peregre Works(ペレグレ・ワークス)」の運営。外国人の在留資格の種類に応じて就労可能な求人を表示、人手不足に悩む「雇い主」と東京で職を探す「在留外国人」をマッチングさせるというプラットフォームである。

こうしたマッチングサービスが必要なのは、それぞれが「安心・安全」を求めるからだ。

ドキュメント:スタートアップ支援-01

まず、雇用する側にとっての安心・安全。外国人を雇う際には、不法就労や不法滞在ではないか、あるいは偽造カードの所持、文化や宗教の違い、日本語でのコミュニケーションの不安などが少なからず生じる。

一方で、雇われる外国人にとっての安心・安全も重要だ。劣悪な労働環境や最低賃金以下の支払い、異常な残業時間の強要などがまかり通ることもある。こうした悪質な企業を排除して、安全な労働環境を東京で提供しようとするのがエルティービーのビジネスだ。

同社が掲げるのは「日本人と外国人が共存することによる、日本社会の活性化」という大きなビジョン。2020年4月からは、政府が認可する登録支援機関として「特定技能外国人」の雇用支援も行っている。鈴木社長は「働く外国人の悩みを知り尽くしているからこそ、企業と外国人の間に立ったサポートができる」と胸を張る。

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社長になるとは夢にも思わなかった

2022年には、地銀5行共催のビジネスコンテスト「X-Tech Innovation 特別賞」も受賞するなど、社会起業の旗手として注目される鈴木社長。しかし、10代まではビジネスにも外国人にも、まるで縁がない環境で育った。

生まれたのは、冬の寒さが厳しい北海道・名寄市。短大への進学をきっかけに新潟へ。都市を暮らしの場としたことで「自分が育った街では今、いかに人が足りなくなりつつあるか」を実感した。ただ、その時点では自分で事業を興そうとは思わなかった。

札幌のシンクタンクに就職して、通訳と翻訳の業務を約5年経験。その後は会計事務所に移り、税務会計の経営コンサルタントになる。その間、米国公認会計士の資格も取得した。

「製造業の財務部に会計事務所から出向するなどして、社長の業務を疑似体験できました。経営者の困りごとで圧倒的に多かったのは『お金』と『人』にまつわることです」。

こうした中小企業が抱える課題が次第に気になり、心の中で「自分が解決したい」という思いが膨らんでいく。

そうして2013年に創業。自ら会社を立ち上げてまで解決したかった社会課題、それは故郷に対しても感じた「少子高齢化にともなう労働人口の減少」だった。そこでまず、人材不足に悩む中小企業に対して、地方から来る学生とマッチングを図ろうとする。だが、そのサービスは軌道に乗らなかった。雇う側と雇われる側の条件に微妙なズレがあったのだ。

このままでは、せっかく立ち上げた会社が危ない。そこで鈴木社長は、創業の志を変えずにピボット(方向転換)を図ろうと考える。

ある日、一人のネパール人青年と出会い「日本で仕事を見つけるのは本当に大変」と悩みを打ち明けられた。一方では、なかなか働く人を見つけられない中小企業がある。鈴木社長に両者を結びつけるという構想がひらめき「これだ!」と思った。2つの課題が重なり合った瞬間だ。

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誰もが「イーブンな世界」を見たい

エルティービー創業の数年前、鈴木社長がフィリピンとベトナムを訪れる機会があった。どちらも人口の6割が30代以下というエネルギーあふれる国。購買力もすさまじく、これから経済が発展して「アジアの国は化ける」と直感した。そこから海外に多くの人材も飛び立っていく。

日本では2008年に「留学生30万人計画」が策定され、コロナ禍直前の2019年には約31万人の留学生を受け入れていた。東京のコンビニエンスストアなどで働く外国人の姿が珍しくなくなったのは、ようやく2017〜18年頃になってのことで、タイムラグがあったと鈴木社長は振り返る。

それまでの外国人労働者は、社会からの偏見と無縁ではなかった。冒頭のプレゼンで、鈴木社長はネパールからの留学生6人をアテンドして面接に向かった寿司店での体験を紹介する。採用に積極的な雇用主だったが「お客さんが怖がるから」という理由で1人ずつの入店を要請。冬の寒い夜のことだ。仕事場も対面の接客ではなく、裏方の見えない場所での労働を希望された。

他の外国人からは「銀行口座をつくらせてもらえない」「会社の寮では狭い部屋に大人数が押し込められている」といった嘆きが届く。「同じ人間なのに、どうしてこんなにも扱いが違うのですか」。プレゼンの場で鈴木社長はストレートな疑問を投げかけた。

彼女がどうしても叶えたい夢は「日本の人も、外国の人も、イーブンでいられる世界」の実現。いつも思い浮かぶのは、幼い頃に読んだ絵本『ぐりとぐら』のシーンだという。「野ねずみも、ライオンも、いのししも、へびも、あらゆる動物が一緒の場にいて、焼きあがった大きな『かすてら』を楽しくみんなで食べる。そんな社会が見たいんです」。それがそのまま、エルティービーの揺るがない企業理念につながっている。

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必ず「誰か」が味方になってくれる

今では「Peregre Works」の閲覧数が月間で1万PV(ページビュー)、サイトを通じた応募が300〜500件にまで成長。過去に人材紹介してマッチングした外国人が同じ職場で7年近く働き続けるなど、少しずつでも「イーブンな世界」に近づきつつある。

エルティービー自身の組織構成も象徴的だ。最高技術責任者(CTO)とは日本語学校で出会った。彼はアメリカで起業経験もあるメキシコ出身のエンジニアだ。「Peregre Works」を外国人が使いやすいようなUI(ユーザー・インタフェース)/UX(ユーザー体験)に作り込んだのはブラジル人デザイナー。デジタルマーケティング担当はカナダ在住の日本人といった具合に多国籍のバックグラウンドがある。分散型のチームだが、月に1回、新宿のオフィスでランチ会をするというアットホームな面も鈴木社長らしさだ。

2023年4月には8,000万円の資金調達を実施した。主な用途はプロダクトやサービスの開発。強みはデジタル化への対応にある。開発をすべて自社内で進められるのも大きい。

例えば、在留外国人に交付される「在留カード」には、氏名や生年月日、国籍・地域などのほか、在留資格や期間、就労の可否や就労できる分野など、多岐にわたる情報が記されている。仕事にまつわる組み合わせだけでも1,000パターン以上。それらを踏まえて仕事の募集や応募がなされるのだが、実態は複雑。エルティービーには10年間のノウハウとデータの蓄積で独自のマッチングシステムが構築されている。

さらに、これからAIも応用した「Peregre Works」の多言語対応(現在の日本語・英語・ベトナム語に加えて、中国語などを順次追加)、スマホを在留カードにかざすだけで入社書類基本セット(外国人雇用状況届出書、多言語扶養控除申告書、外国人と結ぶ多言語雇用契約書)が出力されるサービスなどのリリースも計画中だ。

10年前の自分も振り返りながら、鈴木社長が「東京で起業を考えている人たち」に向けてかける言葉を聞いた。

「私たちの会社もまだ『アーリーステージ』と呼ばれる段階で、決して安定しているわけでありません。それでも伝えられる言葉があるなら、誰かに『おかしい』と言われること、自分で『恥ずかしい』と感じることも、思いきりやってみるのが大事だということ。そうすれば、必ず『誰か』が味方になってくれます」

「そうやって事業がスタートできたら、長距離ランナーのように、倒れずに、疲れないようなスピードで、決して諦めないこと。ところどころに達成を目指すマイルストーンを設定するといいかもしれません」

最後に「多様性がある東京という街だからこそ、いろんな人に出会えて、ビジネスも受け入れてもらえた」と語った鈴木社長。穏やかでありながら、しっかりと前を見据えるその眼差しは、確実に未来のイーブンな世界を見つめていた。

日本、東京のスタートアップの現在地。

長野泰和氏
株式会社ANOBAKA代表取締役社長/パートナー

創業件数は上昇傾向。その後の成長の鍵を握るのは。

シード期やアーリーステージの起業家を支援するベンチャーキャピタルを運営していて実感するのは、ここ10年でスタートアップの創業件数が増えたことです。コロナ禍もありましたが、全体の資金調達額は着実に増えている。DXやAIが注目される今、既存産業の課題を解決する新しいビジネスが、東京を中心に続々と登場しています。

ドキュメント:スタートアップ支援-05 グラフ
2022年の国内スタートアップの資金調達額は過去最高の9459億円を記録。2014年以降、調達社数は右肩上がりの傾向にある。
※1 各年の値は集計時点までに観測されたものが対象。
※2 データの特性上、調査進行により過去含めて数値が変動する。調査進行による影響は金額が小さい案件ほど受けやすく、特に調達社数が変化しやすい。
出典:INITIAL(2023年7月14日時点)一部改変

ビジネスに必要な三大要素は「ヒト、モノ、カネ」です。商材が良ければ、お金は集まる。しかし、そこから成長するためには、人が必要。キャピタリストとして感じるのは、資金調達よりも人材確保の面で課題を抱えるスタートアップが多い現状です。せっかく起業して資金を集めても、人員の確保に手間取るのは、ベンチャーマインドを持つ人々が少ないことにも起因しています。起業する人の数も少なければ、スタートアップに飛び込もうとする社員も少ない。

日本のスタートアップを活性化させるには。

日本人は他国の多くに比べてリスク許容度が低いことは、さまざまな調査が示しています。そういった国民性をすぐに変えるのは難しいですが、例えば、米ハーバード大のドミトリーでマーク・ザッカーバーグがフェイスブックを立ち上げて巣立った後、そのドミトリーから起業する人の割合がグンと上昇したそうです。つまり、身近な存在の成功事例こそ、意識変革にとっては有効なのです。

ドキュメント:スタートアップ支援-06 グラフ
各国の総合起業活動指数(TEA)の推移。TEAは成人人口100人当たりの(誕生期+乳幼児期の段階にある)起業家の人数である。日本は米国やイギリスに比べて数値が低いものの、近年は上昇傾向が見てとれる。
出典:経済産業省委託調査「令和3年度 グローバル・スタートアップ・エコシステム強化事業(起業家精神に関する調査等)」

ゼロ-イチでビジネスを立ち上げるために欠かせないのは、やはり情熱。本気で「人生を賭けてやろう」という人物を、人は応援したくなるものです。結局は、起業家のメンタリティーが最重要ではないでしょうか。幸いスタートアップ税制やエンジェル税制など国内の支援制度が充実してきました。また、ここ数年でスタートアップへの投資額が大きいファンドが出てきているので、これから数年で「日本発ユニコーン」の景色が大きく変わるのではないでしょうか。自己実現の方法として、自主的に人生を歩むための方法として、創業という選択肢が一般的になれば良いと思います。

挑戦を応援する、きらぼしグループの「創業支援」の答え。
ビジネスは、人と人が行うもの
ドキュメント:スタートアップ支援-07

私たちのアクセラレータープログラムに採択された後、エルティービーさんには毎月のメンタリングとシステムの開発支援、ビジネスマッチングなどで半年間にわたり伴走しました。きらぼしグループがインキュベーションの拠点とする「KicSpace HANEDA(キックスペース羽田)」がある大田区の事業者さんにも、資金調達やビジネスパートナーとしてお引き合わせしています。

アクセラレータープログラムの集大成が、多くの事業者を前に行う最終ピッチです。「ターゲットをどこに絞るか?」「何をどのように話すか?」「現状の課題と将来やりたいことは何か?」という具合に、私たちが「壁打ち相手」となって代表の鈴木さんとのディスカッションを重ねました。

7分間のプレゼンテーションでは、私たちも心をつかまれました。「銀行口座を作成するだけでも大変」「社会から偏見の目にさらされている」という外国人たちの気持ちを疑似体験したことで今がある、というエピソード。鈴木さんのビジネスへの思いが、まっすぐに伝わってきました。

10年にわたって外国人の雇用を地道に進めてきたのが、エルティービーというスタートアップ企業です。その大きな魅力は、やはり代表の鈴木さんの人柄にあります。どんな社会を実現したいのか、自らの言葉で明るく語ることができる。そういったほがらかさが、多くの人を惹きつける魅力なのだと思います。

事業へのサポートを受けるうえで、こうした人柄は大事です。ビジネスは人と人が行うものですから、支えたいと思ってもらえるか。エルティービーの事業の根幹には、強い思いがある。130人の方がプレゼンを聞いていましたが、そのうち60人近くから「もっと詳しい話を伺いたい」とコンタクトがありました。

ドキュメント:スタートアップ支援-08
事業にポテンシャルを感じた

鈴木さんがアクセラレータープログラムにご応募いただいた時に思ったのは、取り組んでいる事業が「少子高齢化と雇用」「労働人口の減少」「移民の促進」といった現代社会の課題にフィットしていることでした。外国人を雇用する企業も、全国で毎年2万社ずつ増えています。その下支えをする「プラットフォームとしてのポテンシャル」を感じました。

「在留カード」が抱える問題は、外国人からすると「どこで働けるか」、企業の側は「ちゃんと働ける人が来るか」ということが、パッと分からないこと。さまざまな法的規制をクリアできているのか、それを確認するまでが大変です。

「Peregre Works」というサイトでは、そこにあらかじめフィルターをかけて登録できるからお互いに安心ですが、今後は「AIを利用してどういう働き方ができるか」を読み取る機能も開発中だと言います。

ここまでのシステムを開発するのは大変だったでしょう。エンジニアはもちろんですが、お客さんである利用者たちの話を聞き続けてきたのが鈴木さん。その声がしっかり反映されていました。鈴木さんは「微笑みながら、すごいことを成し遂げてしまう人」という印象です。

ドキュメント:スタートアップ支援-9
ビジネスマッチングの真の目的

きらぼしグループは、他の金融機関以上に創業支援に力を入れていますので、お客さまには「創業といえば、きらぼし」という印象を持っていただけています。

アクセラレータープログラムが終了したスタートアップ企業には、引き続きビジネスマッチングを行います。立ち上げを支援するSS部だけでなく、事業を拡大させる守りの部分も含めてグループとして一体感のある支援ができるのも特徴です。

きらぼしコンサルティングにはチームメンバーに弁護士や会計士、特許庁からの出向メンバーもいて、例えばエルティービーさんには「ビジネス特許」取得などの支援を行っています。外国人の口座作成サポートでは、きらぼしテックとの情報交換もしています。

きらぼし銀行は取引先の中小企業の紹介などで貢献できます。素晴らしいことをやっていても、それを知ってもらえるかが大事です。アクセラレータープログラムや定例のピッチもそうですが、金融機関としてそうした認知向上にアプローチできるのは強いです。

一方で、会社としては売り上げが一番大事でもあります。ビジネスが無事にスケール(拡大)した後、タイミングを見て融資など本業の金融サービスでスタートアップとご一緒したい思いがあります。そのためのビジネスマッチングです。

エルティービーさんは、お客さんの候補から「どういうことを求めているか」を水面下で聞き出しています。本当にニーズのあるサービスをアルファ版で作ってみて、テストユーザーとして使っていただく。現在、そうした企業が30社くらいあります。

ドキュメント:スタートアップ支援-10
日本のシンボル、東京からの発信

アクセラレータープログラムをきっかけとして関わるスタートアップの数が増えれば、その中からユニコーンになれる企業が出てくる可能性が高まりますし、東京でそういった企業を創出するお手伝いがしたいと思っています。

創業で最も大切なことは、起業家が楽しんでやっているサービスかどうか。それは決して「楽(らく)」なことではありません。事業に本気を出す。そうすると恥ずかしい部分もさらけ出すことになりますが、だからこそ誰かが手を差し伸べてくれる。そういったビジネスの立ち上げを「本気で楽しむ人」を支えるのが、私たちの使命です。

ゼロを1にする創業期は大変です。立ち上がった1のビジネスを10にまでスケールさせるのは、また別の能力。サービスを形にしてマーケットに投げるというステップが難しいのです。エルティービーさんの場合、これからは組織の形を作っていく時期になります。

このフェーズでどの企業も苦労をするのは、組織作りや資金調達です。創業期では何でも創業者が行っていく必要がありますが、徐々に組織で対応していかないと事業が拡大しません。また市場にどう展開するかという点では株主とのコミュニケーションや連携も重要です。事業の立ち上げとは別の課題が出てくるので、フェーズごとに支援の仕方があると考えています。

チャレンジに失敗はつきものです。しかし、それを恐れていたら事業は始まらない。だから成功の確度をいかに上げていけるか。私たちは勇気あるチャレンジを応援する存在でありたいです。

東京という都市は、やはり日本のシンボル。KicSpace HANEDAには、海外の顧客からの問い合わせも舞い込みます。私たちもこれから「日本発スタートアップの発信拠点」になっていきたいと思います。