すべての世代が銀行を「手の中」に。
デジタルバンクで新時代のつながりを創出

髙木 文隆

UI銀行 取締役 常務執行役員
トーキョーにつくす人:デジタル化支援 | 髙木 文隆
高齢者もスマホで銀行を利用できる社会を。
デジタルバンクで新たな市場と顧客を開拓

グレーのタートルネックにモードなジャケットを着こなし、颯爽とした足取りでインタビュールームに現れた。銀行員の典型的なイメージとは、やや異なる風貌ながらも、物腰柔らかに挨拶を交わす髙木文隆(たかぎ・ふみたか)は、2022年1月に開業した東京きらぼしフィナンシャルグループの「UI(ユーアイ)銀行」の事業を取り仕切る人物である。

UI銀行は国内2番目のデジタルバンクで、ネットバンクとの違いは、すべてのサービスをスマホアプリで完結できること。口座開設、振込、預金、ローン申し込みなど、手続きから管理までスマホアプリで簡単に行えるという特徴を持つ。

「グループ内にはもともときらぼし銀行がありますが、デジタル化を本格的に推進するにあたり、専門の会社を立ち上げることが決まりました。それが、UI銀行です。きらぼし銀行とは別会社ですが、グループ会社ということで共創共栄の関係です」

そう説明する髙木は、現在UI銀行の執行役員として、経営企画や新規事業開発を担当。「成長途中の組織なので立場は関係なく何でも担当しています」と笑顔で打ち明ける。

開業当初はデジタルバンクの利用を希望しているきらぼし銀行の顧客の口座を、UI銀行に移設することがメインだった。現在は、UI銀行として新しい市場と顧客を獲得するための施策を講じるフェーズに入っているという。髙木はUI銀行の未来に向けた戦略を描くキーマンだ。

トーキョーにつくす人:デジタル化支援 | 髙木 文隆-02

「目指すべき世界観を描く仕事もあれば、アプリの使い勝手などを確かめてデザイナーと一緒にデザインを検討する仕事も担当します」

この数年、あらゆる領域で日本のデジタル化の後れが指摘されてきたが、銀行も例外ではない。すでにデジタルネイティブ世代が社会進出している今、従来の銀行とは一線を画したサービスを提供することは、競争力の観点からも不可欠だ。その意味でも、UI銀行は革新的なことに挑戦している。

「UI銀行はスマホですべての銀行取引を可能にすることを目指しています。デジタルネイティブ世代だけではなく、80歳を超えた私の母のようなデジタルに不慣れな方も含めて、誰もがスムーズにUI銀行を活用できる世界をつくりたい。それが実現してこそ、銀行のデジタル化は完成すると考えています」

地域社会からデジタルに仕事の軸足を移すも、
変わらない「人々をハッピーに」の想い

東京きらぼしフィナンシャルグループに限らず、日本全体で見ても新規性が高いデジタルバンク。この事業をリードする髙木とは何者なのか。風貌もさることながら、そのキャリアも異端だ。

バブルの余韻が残る1990年代前後に学生時代を過ごしていた髙木は、二つの業種に興味を持っていた。一つは銀行、もう一つはアパレルだ。表面的には両極端の分野に思えるが、髙木なりに共通する部分を見出していたそう。

トーキョーにつくす人:デジタル化支援 | 髙木 文隆-03

「世の中の潮流をつくる側で仕事をしたいという思いが根底にありました。銀行は言うまでもなく経済の流れを生み出す仕事であり、私が就活していた頃はマーケティングに注力しはじめていました。堅苦しさから柔らかいイメージに変貌している様子にも興味を持ちました。アパレルはファッションに留まらず、新しい流行をつくり出しているところに惹かれました」

結果的に、信用金庫から普通銀行に業態変更したばかりの旧八千代銀行を選択。父親が信用金庫に勤めており、幼少期から馴染みがあったことも選択に影響した。世の中の潮流を生み出すことへの憧れと同時に、町医者のように地域に根差した仕事や、地域の企業を大きく育てたいという思いも芽生えた。

住宅街や地元商店が混在する小さな駅が最寄りの支店で、お客さま対応の最前線に立ち、預金や融資などありとあらゆる相談に対応する仕事を5年経験した。「『町医者』としての最初のキャリアは、そこで形づくられました」と振り返る。

その後、社員支援の一環として教育制度があり、それを活用して経営やマーケティングを1年間学んだ。このとき、「いずれは部長、支店長とステップアップするのかな」と漠然としたイメージを持っていた髙木のキャリア観に変化が起こり、「一人ひとりやコミュニティ全体をハッピーにする手助けをしたい」という軸が固まった。

トーキョーにつくす人:デジタル化支援 | 髙木 文隆-04

その後支店に戻りしばらくして、本部で若手社員に新規ビジネスを任せる施策がスタートし、30代に差し掛かっていた髙木もメンバーに抜擢。折しもインターネットが台頭していた時期。これからの可能性を感じた髙木は、情報収集のため、インターネットビジネスの先端を走る人たちとのネットワークづくりに勤しんだ。

髙木の尽力の甲斐もあって、旧八千代銀行はインターネットバンキングの実現にこぎ着けたが、もう一つの大きな転機が訪れる。それが、2001年に銀行業界を揺るがす、インターネット専業のソニー銀行の誕生だ。

「故郷」で新時代の銀行をつくりたい。
目指すは物理的制約を超える架け橋

当時、世界から注目されていたメーカーであるソニーのインターネットバンキングのアイデアは画期的で、「なぜ彼らは実現できたのだろう」と興味を持った。情報収集のつもりで、ソニー銀行の採用面接を受けるとまさかの合格。結果に驚いたが、悩んだ結果、後悔が残らないようにとソニー銀行で新たな領域にチャレンジすることを決めた。

ソニー銀行ではマーケティングや経営企画を約15年間経験。その後、銀行設立を経験してみたいとの思いから、開業を控えるローソン銀行に転職し、新規事業を統括するポストに就任した。

インターネットバンキングと銀行の開業という、若かりし頃に憧れた世の中の流れを生む仕事を実現。そんな髙木の近況を聞いた知人から、「デジタルに明るい人を探している」とUI銀行に誘われた。古巣の旧八千代銀行(現きらぼし銀行)のグループ会社にあたるため、「外で学んで得たことを故郷に還元したい」という思いで快諾した。

こうして、これまで培った経験をひっさげ、2022年11月に古巣に帰還。スマホアプリと銀行サービスの融合で新たな価値を生み出すべく、チームメンバーとともにアイデアを練る日々を送る。

トーキョーにつくす人:デジタル化支援 | 髙木 文隆-05

仕事のポリシーは「どのような仕事も必ず自分事化し、オリジナリティを入れ込めるように工夫することです」とのこと。

「仕事がつまらないとぼやいていた20代前半の頃、先輩に『それは受け身だからだ』と叱られたんです。その言葉をきっかけに仕事をただこなすのではなく、自分なりに改善して面白くしようと決めました。次第に楽しみを見出せるようになり、どんな仕事でもやり方次第でクリエイティブな面白さがあることに気づいたんです」

UI銀行で重責を担う立場となった今も、その先輩の言葉を忘れることはない。

デジタル化は人間らしい感情や温もりから遠ざかっていく印象を抱きがちだが、少なくとも髙木が思い描くUI銀行の未来はそうではないようだ。

「デジタル化は物理的制約から人々を解放し、コミュニケーションを豊かにする方法だと思います。そこに銀行がどのように関わっていくべきか、アイデア次第で様々な役割が考えられます。例えば、送金を新しいコミュニケーションの形にすること。デジタル視点で祖父母が孫に資産を贈与するシーンを考えると、ただお金を振り込むだけではなく、送り手の想いを受け手に伝えやすいと思います。祖父母が『学校でたくさんのことを学んでね』とメッセージを添えれば、贈られたお金を大切に使おうと痛感するかもしれません。メッセージを履歴として残せるというメリットもありますよね。こうしたコミュニケーションをUI銀行が叶えるとしたら、お客さまにとって身近かつ新しい存在になれるかもしれません。そのために必要なサービスを模索していきたいと思っています」

これから髙木はデジタルバンクのフィールドで、新時代の銀行の潮流を生み出すのか。人間味あふれる革新に期待したい。